引用と転載について ― 著作物を利用する上でのご注意

著作物は著作権法によって保護されています。したがって他人の著作物を原稿の一部として“転載”する場合は、原則として著作権者の許諾を得ることが必要です。また、自分の著作物の利用であっても、著作権が譲渡されている場合は、譲渡先の著作権者(たとえば学会など)の許諾を必要とします。

その一方、学問は先人の業績の積み重ねによって成り立っていることも事実で、特に自然科学の論文では、その内容に客観性をもたせるため、他人の著作物を“引用”することは必要不可欠といえましょう。そこで著作権法では、著作権者の許諾を必要としない“引用”の規定を第32条に設けていますが、これは“権利制限規定”の一つで、特定の例外的な場合についてのみ認められているものです。著作物を利用するためには、この“引用”と“転載”の違いをきちんと理解し、それぞれ必要な措置をとらなければなりません。

Ⅰ.引用について

引用とは、「紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録すること」と定義されています(「パロディ写真」事件の最高裁判決)。著作権法では、公表された著作物に対して、「公正な慣行に合致しており、かつ目的上正当な範囲内」の場合に限って、引用が認められます。

(1)引用に際して著作権法上遵守しなければならない点 ― トラブルにならないために

著作権法では、「公正な慣行」と「目的上正当な範囲」について、具体的に示されていませんが、判例によって適法性に関する具体的な判断要件が示されています。また、同一性の保持(著作権法第20条)や出所の明示(著作権法第48条)も遵守すべき点であり、さらに、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなされます(著作権法第113条6項)。これらを整理し、引用に際して著作権法上遵守しなければならない点を次に掲げます。

  • 1.
    すでに公表された著作物であること。
    引用は公表されている著作物に適用されます。出版などによる発行はもちろん、ホームページでの公開も、一般的には「公表」に含まれます。
  • 2.
    引用する「必然性」があること。
    自説の補強・展開、学説の批評などの目的のため、他人の著作物を使用する必然性がなければなりません。
  • 3.
    引用部分が明瞭に区分されていること。
    自分の著作部分と引用する著作部分を明瞭に区分することが必要です。区分の方法は、「 」でくくるとか、引用文の前後を1行あける、1字下げにするなど、自分の著作物と誤認させないよう、体裁上の区分をしなければなりません。
  • 4.
    引用部分とそれ以外の部分に「主従関係」があること。
    自分の著作部分が“主”であり、引用する著作部分は“従”という関係でなければなりません。量だけで判断されるものではありませんが、トラブルをさけるためには、引用して使用する分量は必要最小限にとどめてください。
  • 5.
    原則として、原形を保持して掲載すること。
    著作者には同一性保持権がありますので、同一性つまり原形を保持することが必要です。
  • 6.
    原著者の名誉や声望を害したり、原著者の意図に反した使用をしないこと。
    原著者が既に訂正・補足した著作物があるにもかかわらず、訂正前のまま引用したり、あるいは引用して批評すると、原著者の名誉や声望を害した利用となる可能性があります。
  • 7.
    出所(出典)を明示すること。
    出所明示は、引用した部分のなるべく近くにすることが原則です(明示方法等については後述)。巻頭や巻末に参考文献として掲げただけでは、引用部分と出所との関連が不明確なので、出所明示とは認められない場合があります。

(2)“引用”に該当するかどうか判断できない場合

適法な引用かどうか判断できない場合には、まず出版社に相談されることをおすすめします。

Ⅱ.転載について

転載とは、引用の範囲を超えて、既存の出版物などから文章や図表等を別の出版物に掲載することです。転載する場合は、必ずその著作物の著作権者から書面で転載許諾を得なければなりません。出版権が設定されている場合は、出版権者(通常は出版社)の許諾も必要です。

(1)転載許諾の手続きおよび書式

転載許諾に関して、決められた手続きや書式があるわけではありません。しかし、申請や書類作成にあたり、次の配慮が望まれます。

  • 1.
    書類は、国内・海外の出版物であるかを問わず、まず発行元(出版社)にお送りください。場合によっては、著者の許諾も得るように要請されることがあります。その場合は、「著者宛」の書式をご利用ください。
  • 2.
    同一のものを2通作成してお送りください。1通は返信用、もう1通は相手方の控えになります。
  • 3.
    転載を希望する図表や文章などのコピーを添付してください。改変して利用する場合は、どのように変更するかを具体的に示す必要があります。すでに校正刷などが準備できている場合は、そのコピーを添付するとわかりやすいでしょう。
  • 4.
    正確な「出所」を記載してください(頁数や図表番号まで)。あいまいな記載では、確認に時間を要し、返答が遅れる原因になります。
  • 5.
    依頼者の連絡先に必ず電話・FAX番号などをご記入ください。依頼内容についての問い合わせが速やかにできます。
  • 6.
    海外の出版社に出す場合は、できればご所属の施設の英文レターヘッドが入った用紙をご使用ください。最近では、e-mailあるいはホームページ上で転載許諾の手続きが可能な出版社が増えてきています。書類作成の前にぜひご確認ください。

なお、出版社宛と著者宛の雛型書式を、和文と英文でそれぞれを用意しております。必要に応じてご利用ください。また、先方から返送されてきた許諾の書類をコピーして原稿に添付していただくと、原稿を受け取った出版社が転載許諾済みを確認できるので大変助かります。

(2)翻訳書の一部を転載する場合

翻訳された著作物を利用する場合は、まず翻訳出版物を発行している出版社に転載許諾の申請をしてください。ほとんどは、原書を発行している原書出版社の許諾も必要となります。

なお、出所の明示は原書を優先して併記します。

(3)改変して転載する場合

図表などを改変して転載する場合は、出版社だけでなく、著作者の了解も必要となります。著作者の意に反する改変をして転載した場合、著作権の侵害だけでなく、著作者人格権の侵害ともなりますので、十分な注意が必要です(著作権法第20条)。著作者の意に反するかどうかは、あくまでも著作者の判断なので、利用者がやむを得ない改変と勝手に判断して利用するとトラブルの原因になります。通常、図表を改変して転載する場合は、改変後の図表を添えて許諾申請します。

なお、改変した場合、「出所の明示」に加えて〔…より改変〕などの“ことわり”を入れることが必要となります(著作権法第48条3項)。
<例> (「著者名,題名,雑誌名,巻,号,・・・」より改変)

Ⅲ.出所(出典)の明示について

「出所の明示」は、法律上の規定です(著作権法第48条)。

  • 1.
    文章の場合は、前後を1行アキとするなどの方法で、本文と区別をつけ、その末尾に出所を付記する。
  • 2.
    図、表の場合は、表題に隣接して、出所を括弧などでくくり付記する。
  • 3.
    明記すべき事項(書誌的事項)は下記の通り。
    <雑誌の場合>
     著者名,題名,雑誌名,巻,号,頁(図表の場合は論文の最初の頁ではなく所載頁),発行年.
    <書籍の場合>
     著者名,題名,書名(編集者名),巻,版数,頁,発行年,発行所名,発行地.
    <Homepage、Web siteの場合>
     Cancer-Pain. [homepage on the Internet]. New York: Association of ABC ; c2000-01 [updated 2002 May 16; cited 2002 Jul 9]. Available from: http://www.medbook.co.jp/.

なお、転載の場合は、「出所の明示」に加えて、〔…より許諾を得て転載〕と“ことわり”を入れ、引用との違いを明確にする表記方法もあります。

Ⅳ.自著からの再使用について

自分の著作物を別の書籍・雑誌に再び使用(再使用)する場合であっても、出版契約により出版社の許諾を必要とする場合があります。

(1)書籍から再使用する場合

「出版権設定契約」や「著作権譲渡契約」を結んだ書籍から、自著分(共著も含む)を再使用する場合は、出版社の許諾が必要となります。共著(共同著作物)からの自著分の再使用については、出版社の許諾のほかに、共著者全員の許諾が必要です(著作権法第65条第2項)。ただし、代表者が定めてあれば代表者の同意でよいとされています(著作権法第65条第4項)。契約の内容については、出版社に照会されることをお勧めします。

(2)雑誌から再使用する場合

雑誌の場合も基本的には書籍と同様の扱いになります。とりわけ、海外の雑誌や学会誌では、著作権が譲渡される場合が多く、自分の論文であっても再使用する場合、譲渡先から転載許諾を得なければなりません。最近は商業誌でも譲渡の形をとっているものが増えていますので、「投稿規定」や「執筆依頼状」などをご確認ください。

<参考:著作権法条文(抄)>
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項若しくは第三項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合
二 第三十四条第一項、第三十七条の二、第三十九条第一項又は第四十条第一項若しくは第二項の規定により著作物を利用する場合
三 第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条若しくは第四十六条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。
2 前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
3 第四十三条の規定により著作物を翻訳し、編曲し、変形し、又は翻案して利用する場合には、前二項の規定の例により、その著作物の出所を明示しなければならない。

第六十五条 共同著作物の著作権その他共有に係る著作権(以下この条において「共有著作権」という。)については、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又は質権の目的とすることができない。
2 共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。
3 前二項の場合において、各共有者は、正当な理由がない限り、第一項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることができない。
4 前条第三項及び第四項の規定は、共有著作権の行使について準用する。

第百十三条 次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
一 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為
二 著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を情を知つて頒布し、又は頒布の目的をもつて所持する行為
2~5(省略)
6 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。